素直に、生きる。── 薬膳cafe muumiが届ける、ウェルビーイングという美しさ
2026年09月04日
<PROFILE> 山根 実優(やまね みゆう)薬膳cafe&bar muumi 店主/あんこ治療院
群馬県太田市在住。子どもの頃から「給食のおばさんになりたい」という夢を持ち、高校は食品科学科へ進学して食の研究に取り組む。栄養士となり、老人福祉施設の調理に約7年間従事。
在職中に自身の体調を崩し、あんま・指圧・マッサージによって回復した経験から、「食だけでは健康は叶えられない」と考えるようになる。一人暮らしの高齢者に向けた訪問マッサージの事業を立ち上げ、さらに美容・エステの分野でも約6年学ぶ。
調理の仕事を離れ、都内の学校に通っていた頃、横浜中華街で出会った一杯の薬膳粥が転機となる。食と東洋医学を結ぶ道を見出し、2026年3月27日、創業80年の漢方薬局「亀甲堂カナヰ薬局」だった建物をリノベーションして薬膳cafe&bar muumiを開業。あんこ治療院を併設し、食と施術の両面から人を整える場をつくっている。
「自分に素直に生きている人が、美しい」──その言葉どおりに、好きなことを仕事にした一人。
薬膳cafe&bar muumi
373-0033 群馬県太田市西本町6−3
TEL:0276-55-3487
営業時間・定休日:8:30〜15:00/金・土のみ18:00〜22:00 木曜日定休※夜の営業は instagramをチェック・お問い合わせください
Instagramそれが、子どもの頃からの夢だった。
食べることが好きで、からだにいいものを食べることは大切だと信じていた。
高校では食を学び、栄養士になり、老人福祉施設の厨房に立った。
まっすぐな道のりだった。
けれど、その厨房で、自分のからだが動かなくなった。
食を届ける側の人間が、食だけでは健康になれないことを知る。
その戸惑いが、彼女を次の場所へ運んでいく。
あんま、指圧、マッサージ。
美容、エステ。
そして、横浜中華街で出会った、一杯の薬膳粥。
太田市西本町。
創業八十年の漢方薬局だった建物に、いま、朝から粥の湯気が立っている。
食と、東洋医学。
その両方から人を整えるこの場所に、美人協会が見つめたい”美しさ”がある。
Q. これまでの経歴を教えてください。
子どもの頃から、給食のおばさんになりたかったんです。
食べることが好きで、からだにいい食事をすることは大切なことだと、ずっと思っていました。だから高校も食品科学科に進んで、食の研究をしていました。
そのまま栄養士になって、老人福祉施設で調理の仕事に就きました。
振り返ると、一貫した夢だったんだと思います。子どもの頃に思い描いていたことから、そんなに離れていない。ずっと食のそばにいたかったんです。

Q. 転機になった出来事を教えてください。
施設で調理の仕事をしている時に、自分のからだに不調が出てしまったんです。
食を届ける仕事をしている自分が、体調を崩してしまった。
その時に助けられたのが、あんま、指圧、マッサージでした。施術を受けて、自分のからだの不調が改善していったんです。
そこで気づきました。
食だけでは、健康は叶わないんだと。
栄養のことはずっと勉強してきました。でも、それだけでは足りなかった。からだをほぐすこと、生活を整えること、そのすべてが揃って、はじめて人は健やかでいられる。
その気づきが、今につながっています。
Q. そこからどのように道が広がっていったのでしょうか。
一人暮らしのお年寄りに向けた、訪問でのマッサージの事業を始めました。
施設にいた頃から、高齢の方が食事だけでは元気になりきれない姿を見ていましたから、自分の手で直接できることをしたいと思ったんです。
それと並行して、きれいになりたい、健康でいたいという興味から、美容やエステの仕事も学びました。
食に加えて、リラクゼーションやマッサージ。
外見だけでなく、食生活や生活習慣。
そこに薬膳と栄養のバランスが加わって、はじめてトータルにからだが整っていく。
だんだんと、自分のやりたいことの輪郭が見えてきました。
Q. 薬膳との出会いについて教えてください。
調理の仕事を辞めて、都内で自分の夢に向かって学校に通っていた頃です。
横浜の中華街で、薬膳のお粥に出会いました。
これが、きっかけでした。
薬膳って、漢方の考え方と、食薬と呼ばれる食材でできています。東洋医学という同じ土壌から育った、漢方の兄弟のようなものなんです。日々の食事こそが健康の基盤になるという「薬食同源」の考え方が、その根っこにあります。
私が惹かれたのは、季節との関わりでした。
自分が食べたいと思う、その素直な気持ちが、不思議とその季節の旬の食材と合うんです。
旬には、意味があります。
たとえば春の山菜。あの苦みには、冬の間にため込んだものを外に出してくれる働きがあると言われています。とれたての野菜も同じです。
からだを、素直にきれいにしてくれる。
お粥から始めよう。そう思いました。

Q. muumiと、併設されているあんこ治療院について教えてください。
好きなことを仕事にできて、今は治療院も開業しました。あんこ治療院という名前で、muumiに併設しています。
食と健康の両方を、この一つの場所で叶えられる体制にしたかったんです。
治療のやりがいは、はっきりしています。
施術をすると、みなさん笑顔で帰っていかれるんです。前向きになって、表情が変わる。それを見るのが本当に嬉しい。
この場所は、ウェルビーイングを届ける場所だと思っています。
食べて整える。施術で整える。その両方があるから、この場所には意味があります。
Q. お店ではどのような体験ができるのでしょうか。
手仕事に触れていただく体験を大切にしています。
ハーブティーの調合をしていただいたり、東洋医学のミニレクチャーをしたり。姿勢やバランスのチェックもできます。
もともと漢方薬局だった建物ですから、そういう時間がこの空間にはよく似合うんです。
リトリートのように、少し特別な体験ができる場所にしていきたいと思っています。
朝は養生粥御膳をお出ししています。七種のスパイスを使ったお粥に、季節のおかずが八品。ナツメやロウガン、フェンネルなどでとっただしがベースです。ハーブティーは何種類かからお選びいただけますし、体調をうかがってお声がけもしています。
「いい朝を過ごしてください」
そう思いながら、毎朝お出ししています。
Q. 食と東洋医学の視点から、大切にしていることは何でしょうか。
整えることです。
東洋医学には「未病」という考え方があります。病気ではないけれど、健康とも言い切れない状態のことです。なんとなく疲れやすい、冷える、からだが重い。検査では異常が出ないけれど、本人はつらい。
その未病のうちに手を打つことを、東洋医学では大切にしています。「未病を治す」という言葉があるくらいです。
病気になってから治すのではなく、病気にならないからだをつくる。
食と、東洋医学の視点から、その手前を整えていく。それが私のやりたいことです。

Q. 開業までを振り返って、いかがですか。
友達と家族に助けられて、muumiも治療院も開業することができました。
一人では、絶対に無理だったと思います。
栄養士として七年、美容の世界で六年。そしてカフェへ。ずいぶん遠回りをしたように見えるかもしれませんが、私の中ではブレずにここまで来られたと思っています。
今が、いちばん楽しいです。
正直、かなりの激務です。でも、まったく苦ではないんです。これは仕事ではなくて、ライフワークだと思っています。
ストレスを感じることなく、楽しく頑張れている。そんな毎日です。
Q. 山根さんにとって「美しい人」とは、どんな人でしょうか。
自分に素直に生きている人です。
そういう方を見ると、綺麗だな、美しいな、と思います。
プライドや、凝り固まった狭い視点にとらわれてしまうと、どうしても素直ではいられなくなる。そうすると、その人の持っている良さが見えにくくなってしまう気がするんです。
素直でないと、自分のからだの声も聞こえません。
食べたいものが分からなくなったり、疲れているのに気づけなかったり。
素直であることは、自分を大切にすることと、つながっているのだと思います。
Q. 「美しい」と感じるのは、どんな時ですか。
空を見上げた時です。
あとは、季節の匂いですね。香りに、季節を感じる時。
梅雨の頃の、土と雨の匂いが好きなんです。あの匂いがすると、ああ、この季節が来たなと思います。
日本には四季があって、自然がある。それが本当に美しいと思います。
だから、ぼーっとする時間を大切にしています。
何もしないで、空を見たり、匂いを感じたりする時間。そういう時間があるから、自分に素直でいられるのだと思います。

Q. 今後の展望を教えてください。
これからも、ここを拠点にウェルビーイングを届けていきたいです。
食で整える。施術で整える。季節を感じてもらう。
そのすべてが、この場所でできます。
来てくださった方が、少し軽くなって、笑顔で帰っていく。そんな場所であり続けたいと思っています。
給食のおばさんになりたかった少女は、栄養士になり、施術者になり、そして薬膳と出会った。
まわり道のように見えて、その道は一本だった。
人を、健やかにしたい。
食だけでは届かなかったものへ、彼女は手を伸ばし続けてきた。
創業八十年の漢方薬局だった建物に、いまは粥の湯気が立ちのぼる。
土地が抱えてきた養生の記憶は、かたちを変えて、この場所に受け継がれている。
美しさとは、飾ることではない。
自分に素直であること。
季節の匂いに、立ち止まれること。
からだの声を、聞き逃さないこと。
太田の朝に、その静かな美しさがある。